市民参加の自治的協同社会強化へ学びあいの場をー古沢広祐『食・農・環境とSDGs』を読んで

 1995年に『地球文明ビジョン』(NHK出版)を読んで以来、古沢さんの描く人類社会のビジョンに近しさを感じてきた。今回それを継承し、より精緻に展開した本が出たというのでさっそく読ませていただいた。そのエッセンスを紹介したい。

 古沢さんの世界認識の基本は、カール・ポラニーが『大転換』(東洋経済新報社)で示している人間の経済の三要素である<交換・再分配・互酬>を現代の経済・社会の中でどう構成しなおすのかという視点である。

 交換は市場経済の基本であり、再分配は税による富の再配分を目指し、互酬はお裾分け、プレゼント、ボランティアなどの贈与や助け合い(相互扶助)を意味している。この三者のバランスは現代社会において極めて悪くなってきており、互酬の領域が交換の領域に置き換わっていたり、再分配の公的な領域を私的な市場経済が侵食したりしている(新自由主義の考え方による「民営化」)。

 わが師と仰ぐ故須田春海さんも市民自治強化の立場から市民社会を構成する3つのセクターのバランスを説いた。古沢さんは、社会経済的視点から3つのセクターのバランスを考える。

 その内容は本書の核心部である「第Ⅲ部 ビジョン形成と社会経済システムの変革」、そのなかでも「[4]資本主義の行方と持続可能な社会」に凝縮して展開されている。

「資源・環境・公正の制約下で持続可能性が確保されるためには、新たな社会経済システムの再編が「3つのセクター」のバランス形成、「公」「共」「私」の3つの社会経済システム(セクター)の混合的、相互扶助的な発展形態として展望できる」(p.220)

「とくに第1の市場経済(自由・競争)をもとにした「私」セクターや、第2の計画経済(統制・管理)を基にした「公」セクターが肥大化してきた現代社会に対して、第3のシステムを特徴づける協同的メカニズム(自治・参加)を基にした「共」セクターの展開こそが、今後の社会構成において大きな役割を担うと考えられる。資本主義経済との関係では3セクターのバランス形成において資本の無制約な拡大増殖(「私」セクター)

に偏重しない社会のあり方が示唆されるのである。」(p.220)

「脱成長型の持続可能な社会が安定的に実現するためには、利潤動機に基づく市場経済や政治権力的な統制だけでは十分に展開せず、市民参加型の自治的な協同社会の強化によって可能となると思われる。それは、地域レベルの共有財産(コモンズ)、コミュニティ形成、福祉、公共財、地域・都市づくりなどの共同運営において力を発揮するだろう。さらに世界レベルでは環境に関わる国境調整、大気、海洋、生物多様性などグローバルコモンズの共有管理においても有効であろう。」(p.221)

 そこから古沢さんは、SDGsの政策統合的、領域横断的な機能の発揮や公と私の中間域に位置する領域、とくに「社会的連帯経済」(協同組合、NPO社会的企業など)の広がりに注目し期待する。

 わたしもその方向性に共感し、具体的な実践現場である地域において「SDGsのまちづくり」(持続可能性、社会的公正、包摂性などで統合された地域づくり=FEC自給圏の形成)と「地域資源を活用したしごとづくり」(若者の起業支援)をすすめている。

 願わくば、そうした実践者の学びあいの場をつくり古沢さんたちとより深化したビジョンと実践の指針を磨き上げていきたい。

 興味を持たれた方のために、発行元による本書の紹介のリンクを掲載しておく。食・農・環境の世界で今どんなことが進んでいるのか、また人類、世界や宇宙をとらえる新たな視角など興味深い記述が満載である。多くのことを学ぶことができるだろう。

http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54019209/

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